容疑者を自供させるテクニック
2008.09.15 Mon
最近、いろいろと心理学系の本を読んでますが、ふと思ったのは、捜査官が容疑者に自らの犯行を自供させるというのは、最も高度な心理テクニックを使っているのではないかということ。そう思って読んでみたのが、この一冊です。
「『落とし』の技術」 著・北芝健 双葉社
被疑者として取調室に来れば、自分のその後の人生がかかっているだけに、様々な心理戦が展開されるはず。ドラマのように、ドン!と机を叩いたり、机の上の照明を顔に近づけたりと、高圧的な取り調べや、カツ丼を注文する場面がイメージされますが、実際にはそういうことはないようです。
面白かったのは、第二章の「動作や服装、態度でわかる被疑者の本性」。気になった部分だけで、こんなにたくさんありました。
・視線を右上に向けながら語った話は、嘘の話であることが多い
(視線を右上に動かすことは、左脳で言葉を駆使しようとする働きと関係があるそうです)
・目の力が弱いときは、会話を中断したがったり、捜査官の言い分を拒否する構えを取るとき
・上を向くのは、ウソを考えているとき。横を向くのは完全拒否。下を向けば、捜査官に屈した証拠。
・前傾姿勢は、被疑者が捜査官の話に乗ってきた場合か、挑戦的な姿勢を示したとき。
・取り調べの最中に身振り手振りが大きくなる容疑者は、自己正当化をしようとしている(ウソの供述をしている)
・一方の手で他方の手を握っているときは「防衛」。両手の指を組む時は「防衛」+「願望」。握りこぶしを膝の上に載せている時は「強い意志」を表わす。
・早口で話す被疑者は「不安と事実の隠ぺい」を狙うことが多い。こういうときは、タバコやお茶で「間」をとる
・腹部を抑えながら寝る人は内向的で、一見強がってはいるものの、依存心が強い。大の字で寝る人は自信家。うつぶせで寝ているようなら、かなりの神経質で、欲が強く、自我も強い。横向きになって、足をそろえて寝ていたら、精神の内部に苦悩を抱えていると考えられる。
・グレーの服を好んで着る人は、「一見、同調性があるものの、内実は違う場合が多い」。赤い服は「本当は自信がないが、自己主張が強い」。派手な格好の人は虚栄心が強く、それが進めば「実は借金が多くて首が回っていない」
・スーツを着て、一見れっきとした社会人に見えるが、髭をそっていない人間は、自尊心が強く、人を見下すタイプで、相手への礼儀が希薄。
・水玉模様のネクタイをしている人間は自己顕示欲が強く、ストライプやレジメンタルが好きな人は保守的。無地のネクタイが好きな人は「実は何も考えていない」、あるいは「すごく恐ろしい人」のどちらか。
・安いヒモなしの靴を履く人は「結果を急ぐ」タイプ。犯罪も大雑把。上等なヒモ靴を履く人は慎重で神経質、深謀遠慮型。
・出前で蕎麦を注文し、食事時間が極端に短い人は、ある種の犯罪に手を染めている可能性がある。潜伏先で肉を食べる人は血気盛んで猪突猛進型。
・バーでいきなり日本酒を飲む人はロマンチックな性格の人が多い。ワインを頼む人はマイペースな人。ウイスキーや焼酎などの蒸留酒を頼む人は論理的で冷徹な考え方をする人が多い。女性なら、最初にビールを頼む人は外向的。カクテルを頼む人は移り気な性格の人が多い。
こういう細かなプロファイリングから、被疑者の性格に合わせた取り調べが行われます。なにせ48時間で自供まで持ち込まなくてはいけないのですから、様々な手法が用いられますが、大きく分けて、自供までには三つのステップがあるようです。
1)話し始めるようになる
2)捜査官に心を開くようになる
3)犯行を自供する
取調室で、いきなり事件の話を聞いても、被疑者が話すはずがありません。様々な関係のない話をしながら、ゆっくりと迫っていくのです。その際に使われるテクニックは...
・話題だけでなく、話し方も被疑者に合わせる
・外見をほめる。性格をほめる。
・被疑者のプライドをくすぐる。故郷自慢をさせる。
・年金・税金問題から、「世の中、不公平だ」と共感してみせる
・女性の捜査では「5K」をしない、というのが基本。5Kとは、暗い・汚い・怖い・固い・臭い。
・甘いものやタバコを出して、安心感を与える
つづいて、「揺さぶり」がかけられます
・世間話の中に、現実の事件の情景を織り交ぜたり、刑務所生活の不安を呼びおこさせたりする
・捜査官と被疑者の関係ができかけたところで、担当者の交代をにおわせてみる
・捜査官と被疑者の「ラポール(rapport)」(=調和の関係)を築き上げる
最後は、「落とし」の技術です。できるだけ短い期間で、なるべく居心地の良い刑務所で過ごしたい、という被疑者の感情を利用します。
「今を逃すと刑が重くなる」
「今、積極的に話せば情状酌量の余地もあるが、今を逃すと『犯情悪質』のレッテルが貼られるぞ」
そのときに大切なのが捜査官と被疑者は対等であるという印象を持たせることです。さもないと、法廷で「自白を強要された」とひっくり返される恐れがあるのだそうです。
これぞ、現場で使われる最強の心理学ですね。これをビジネスの現場に応用できたら、面白いことになりそう。この本によると、日常生活での極意は「相手の尊厳を傷つけないこと」。相手から自発的にしゃべらせるテクニック、なかなかマスターできないと思いますが、試してみる価値は充分にありそうです。

